くせっけデザインのブログ

くせっけの人に幸あれ。

上野で動物を見ずにゴリラのトークイベントに参加して感動

動物園の隠れた楽しみ方

動物園の一味違った楽しみ方をご存知だろうか。

レジャー施設のイメージが強い動物園は、同時に動物の繁殖や保全に関する研究、自然や環境問題に関する普及啓発なども行っている。

普及啓発活動の一部として、各地の動物園でトークイベントがたびたび開催されている。動物の餌やり体験やお散歩タイムなど、通常の展示の延長にあるイベントほど目立たないが、HPや各種SNSで情報を掴むことができる。

僕は北は旭山動物園、南は長崎バイオパークまで回っている動物園好きを自負しているが、こういったイベントに参加したことはなかった。興味のあるテーマがあれば参加したいな〜と思っていた矢先、ゴリラに焦点を当てたイベントが上野動物園で行われることを知りすぐに申し込み、当選したので参加してきた。

30分オーバーの熱いトークイベントで語られたこと

幼い頃から何度も通った上野動物園で行われたトークイベント『ゴリラと働く-飼育係と研究者からのメッセージ』。園内のバックヤード感溢れる施設で3時間に渡り行われたこのイベントは、熱気に溢れ、示唆に富んだ内容だった。

会場には抽選で選ばれた80名の参加者(ほぼ動物好きの大人)。開始前から期待感で充満していた。その期待通り、海外青年協力隊の経験を持ち現在上野動物園でゴリラ飼育を担当している仲村賢さんのお話に引き込まれて、心を揺さぶられた。

仲村さんからは、母親ゴリラの育児放棄により人口飼育することとなったゴリラ「スモモ」の成長と群れに復帰するまでの道のりが語られた。

ゴリラはとても頭が良いこととトレードオフで非常に心が繊細な生き物らしい。人口飼育で9ヶ月半育てたゴリラを群れに戻すことは、群れのゴリラ間の関係性にインパクトを与えることになる。

そのため、人口飼育フェーズを終えたスモモを初めに母親ゴリラと少しずつ接触させるのだが、まずはガラス越しの接触、次に柵越しの接触、母親ゴリラとの関係性が良好と確認できたらボスゴリラと接触させるなど段階を踏んだ試行錯誤の連続だった。

一歩手順を間違えればスモモの命に関わる問題のため、非常に慎重に進められたが、最終的には群れに復帰することができた。この時の飼育員の方々の安堵感と高揚感は相当なものであったことが仲村さんの語り口の熱さから推測できた。

仲村さんが撮影した貴重な映像付きでその様子が語られ、無事群れに戻るシーンでは涙を流す方もいたほどだった。

予想を遥かに超えた飼育員さんのスゴさ


仲村さんのお話を聞き、とても驚いたことは飼育員の方に求められるインテリジェンスな側面と、氏のスケールの大きさだ。

大都会の中にある上野動物園。そんな中でもいかに自然に近い環境で動物を飼育するかという試行錯誤を日々されている。飼育下のゴリラはムキムキマッチョな見た目だが、自然のゴリラは食物繊維を大量に摂取しており、体内にガスが溜まっているため丸っこく見える。その差を軽減するためにグラム単位で餌の種類を調合し、体重や糞の変化を記録する。その資料の細かさは研究者のようだった。

また、そういった目の前の繊細な仕事の延長に大きなスケールを描いている方であった。最終的には動物園でゴリラの繁殖をサポートして絶滅を食い止めたいが、野生のゴリラがいない日本ではハードルが高い。それでもゴリラは人気の動物なので環境教育のシンボルとしてはうってつけだと言う。

ゴリラの生息地でスマホに使用されるレアメタルの採掘が行われた住処が脅かされていることを伝えるため、国内の動物園が連携してスマホ回収イベントを仕掛けた。保全に関する直接的なアクションは難しいが、そういった活動により、遠い地で起きている現実の認知を広め、人の行動変容につなげたいと熱く語る。

収穫は「新たな視点」

ここまで視座の高い飼育員の方がいらっしゃるとは思っておらず、衝撃を受けた。これまでとは動物園に対する見方そのものが変わってしまいそうな体験だった。

僕は幼い頃、動物園の飼育係に憧れていた時期があったので、大人になった今その裏側の苦労を知れたら興味深いなと思い参加したが、それどころか地球の裏側にまで想いを馳せることになるとは思わなかった。またひとつ視点が増えた気がして参加してよかったと思うし、次回のトークイベントもエントリーしたいとと思った。

長年動物園に足を運んできたが、ここまで奥深い楽しみ方があるとは予想外。興味を持たれた方がいたら、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

新しい視点にきっと感動するはずだ。