くせっけデザインのブログ

くせっけの人に幸あれ。

初めて映画館でボロ泣き。初めて触れたJAZZ。映画「BLUE GIANT」の話。

ネタバレにご注意を。

 

最近、偶発的な出会いが楽しい。

それは仕事やプライベートで会う人にしても図書館の特集コーナーに並ぶ本にしても、予告編で少し気になった映画にしても。「時間を無駄にしたくない」という気持ちから「発見があるかもしれないから新しいものに触れてみよう」という気持ちが強まってきたこの頃、感動的な出会いがあった。

 

映画「BLUE GIANT」。

初めて映画館でボロボロと泣いてしまった恐ろしい作品。「そんなもの見る人のタイミングだ」と言われてしまうかもしれないが、これまでの人生で一番感動した映画かもしれない。もともとコミックも好評だったようだが、その予備知識はなく、単純に数年前からJAZZに触れてみたかったという理由で映画館に足を運んだ。

 

「世界一のジャズプレーヤー」を目指して十代で上京した宮本大は竹を割ったような真っ直ぐで快活な性格。その人柄と人知れぬ努力に裏打ちされたサックス演奏はエネルギーを爆発させたような力強い魅力を放ち、多くの人を魅了していくことになる。また、志をともにする同世代の仲間にも恵まれ、日本一のステージに辿り着く。

 

ストーリーは気持ちいいくらい王道の青春ストーリー。恋愛要素こそ登場しないものの、真っ直ぐな努力や、若さゆえ躊躇なく新しいことにチャレンジできたり、逆に若さゆえ壁にぶつかったりしながらメンバーが成長していく。その青春模様の鮮やかさは、勝手に自分に限界を決める大人たちへのマウントとすら受け止めてしまい、そう捉えてしまうちっぽけな感受性に自己嫌悪したほどだ。

 

観終わった時にはそんな感情は吹っ飛んでいた。圧倒的に時間を確保された演奏シーンの心地よいサウンドについ身体を泳がせたくなった。音楽に力を入れる映画作品は増えているが、この作品は一つ抜けていると思った。流れるアニメーションの裏で、人が汗をかきながら最大限の演奏をしている様がはっきりと浮かび上がる。これは映画館でしか味わえない感覚だ。JAZZに対してお洒落な喫茶店に流れているまったりとしたBGMという印象はガラッと変わってしまった。初めて触れたJAZZがこれでよかった。

 

ストーリーに話を戻す。この映画には非現実的な出来事は起こらない。人が想像できる範囲で人生に起こりうるイベントや心情が描かれる。裏切りや、メタバースSNSの世界で人の心が壊れるような展開は発生しない。このシンプルさがこれ以上なく美しい。ピアニストのユキノリは幼少期からピアノに親しむ背の高いクールなエリートの雰囲気を醸し出しているが、お洒落とは言えない安アパートで質素な生活をしている。この生々しさが、大人が考え抜いた限界のSFフィクションより僕の心に響いた。

 

メンバーおのおのが壁にぶつかりながらも辿り着いた日本一のステージ。気分を昂らせて本番までの残り数日を過ごすメンバー。そのタイミングでユキノリは交通事故に遭い重症を負う。「日本一のステージ」を自負するジャズバーは若いプレーヤーを応援したい気持ちと中途半端な出演者に演奏させられないプロ意識の間で葛藤するが、議論の末、メンバーの欠けた主人公らをステージに上げる決意をする。また、残されたメンバーも不完全な状態でも最大限のパフォーマンスをするよう固く心に決めて舞台までの一歩一歩を踏みしめる。

 

このシーン、完全にやられた。涙が止まらなかった。少し冷静になれた時、見渡せる範囲の観覧者の多くが涙を拭っていたことに気付いた。こんな光景初めてだった。

 

アンコールを控え、決意を新たにするメンバーの前に重体のユキノリが現れる。無理やり退院してきたユキノリは客が驚く中、メンバーに肩を支えられステージに上がり、片手で演奏を行う。怪我のハンデなど感じさせない、憑き物が落ちたように楽しくピアノを弾く彼の演奏は客の興奮を呼び起こす。

 

ここで、二度目のボロ泣き。

感動で胸がいっぱいになった。人は歳を重ねるほど「頑張る」ことにシンプルな美しさを感じられるようになると思うが、4-50代の観覧されていた方も涙を流していた姿が印象的だった。

 

音楽としてのJAZZに触れられたことも良かったが、それ以上の熱さを発する作品に出会えたことが嬉しかった。すでに上映頻度も絞られていた時期だったが、見終わった直後に翌日のチケットも抑えた。二度目の鑑賞でも心を揺さぶられたことは言うまでもない。

 

とにかく気持ちの良い作品で、帰り道にスキップしたくなるような、そんな心境になった。

 

素敵な作品をありがとうございました。