くせっけデザインのブログ

くせっけの人に幸あれ。

公務員時代の忘れられない思い出。カッコ良すぎる大人と出会った話。

「大人というのは自分のことを一番優先している存在だ。」


高校を卒業して18歳で社会に出た僕は、その考えがどこから来たのか今だにはっきりとはしないものの、早くから一人暮らしを始めたこともあり、社会の波に流されないよう思考のバリアを張っていたことが理由の一つではないかと今では思う。

僕は公務員時代、学生をはじめとする若者世代の方にかけがえのない体験を提供する仕事に4年間就いていたことがある。具体的には市内を中心に集まった大学生・高校生に子ども向けイベントを一年かけて企画・実行してもらい、その過程でチーム内コミュニケーション、大人との調整・交渉、トラブルの対処といったプチ社会経験をしてもらい、達成感自己有用感(「私ってやれるじゃん!」という気持ち)を持ち帰ってもらうという仕事だ。なぜ市役所がこのような仕事をしているかというと、「地域を担う次代の育成」という名目だ。これを市役所のメンバーだけでなくボーイスカウトや子ども会といった地元の大人たちも巻き込んで仕掛ける。

今、こう書いていても素晴らしい仕事だと思う。「人の成長」は数値化できるものではないが、だからこそ市役所が務める価値がある。NPO法人や民間団体が同様のことを行う可能性はあるが、当時はそういった活動はまだ一般的ではなかった。この数値化できないが価値がある仕事に僕はのめり込み、一人でも多くの若い世代の方に体験してもらえるよう声をかけまくった結果、最後の年には43人の学生ボランティアを1人でサポートすることになった(例年は10数名)。やり過ぎた。

一年間の集大成であるイベント当日を目前に控え、市役所の大きな会議室を貸し切って学生ボランティアのみんなと連日作業をしていた。時間がない中、イベントのクオリティを上げて子どもたちを楽しませたい、これまで様々な壁を乗り越えて実現するイベントだから精一杯やりたいという雰囲気が充満していた。連日、平日・休日問わず遅くまで作業をするメンバーも多くいて、忙しい学生生活の中でこのイベントの優先度を高めてくれていることに感謝しかなかった。

一方で、ハードな作業になりつつある状況でも大人数ゆえ、一日中集まっても食事を提供することは予算の関係で難しかった(自腹もしくは用意してもらっていた)。みんなが熱くなっている反面、サポート体制の弱さに少し後ろめたさを感じていた。

そんな休日の作業中、地域ボランティア団体「青少年指導員」である50代のAさんが急にやってきた。しかも大量のおにぎりをお弁当屋さんから仕入れて。ボランティア団体ではなく、自分の財布から出したお金で買い、「みんなで食え」と言うのだ。50人近いスタッフの食事代はなかなかの金額だった。

あらかじめ連絡をもらっていなかったので驚いた。Aさんに「さすがに出させてください」と申し出たがあっさり断られ、すぐに帰ってしまった。翌日上司に報告したら、予想通り「こちらでお金を支払おう」という話になったので、Aさんに電話して伝えたところAさんが一言。

Aさん「いらない。これは未来への投資だから。」

と再度断られた。

か、か、カッコいい・・・。

と同時に、自分の時間を割いて他者や地域に貢献するボランティアの方にも沢山出会ってきたが「ここまでできる人がいるのか」と衝撃を受けた。Aさんも町工場の経営で大変な身だ。

そういった方の協力と学生のみんなの努力が相まってイベントは4000人の親子を楽しませ大成功した。その後コロナ禍で数年間中止となったこともあり、「あの回はすごかった」と関係者の方から言ってもらうことも多い。

僕はイベントを最後に違う職場へ異動したが、Aさんは以降も毎年差し入れをしているらしい。

Aさんとは今だに親しくさせてもらっている。上記のようにポジティブなコンセプトのイベントではあるが、大人も学生も含めて人が大勢集まれば何らかのトラブルは起きる。そう言ったことに対して何度も相談したり、世の中の不条理について愚痴を吐き合ったりした。休日にご自宅まで遊びに行ったこともある。第二の父親と言っても過言ではない存在だ。

Aさんをはじめとする素敵な大人たちと出会って、僕の思考のバリアは解消された。30代になった今では若い世代の方が将来に希望を持てないなら進んで相談に乗るし、人脈を頼って素敵な大人と会ってもらいたいとも思うようになった。Aさんのようなカッコ良すぎる大人がいるんだということを多くの方に知ってもらいたいし、自分もそうなりたいと強く思っている。

公務員時代の忘れられないエピソードの一つだ。